タイトルだけを見るとよくある嫌中本のようですが、別物であると考えています。
(よくある嫌中本を読んだことがないので、本当のところは判断できないのですが)
「別物」と判断した理由は、次の2つです。
A.著者の経歴
解説によると、著者のエドワード・ルトワックは、アメリカ政府・軍事機関で顧問を務めているだけでなく、日本の防衛省防衛研究所をはじめとして、世界中の軍事関係機関で招聘講師を務めている。
B.インタビューした相手
第14章で日本について書いてあり、2011年3月にインタビューした相手の名前が書いてあります。安倍晋三、中曽根康弘など、見たことのある名前が挙がっています。また、2014年10月29日の朝刊によると、10月28日に著者が首相官邸を訪れています。
この本の副題は「なぜ世界帝国になれないのか」となっており、中国の戦略的な不味さを説明しています。著者の主張は次のとおりです。
1.中国は自国の行動が他国にどのような影響をあたえるか分かっていない。
中国に限らず、アメリカやロシアのような大国について言えることです。国が大きくなれば、それに応じて国内問題も増えます。しかし、人間の認識能力は国の大きさに関係ありません。その結果、外交に対する関心が低下します。
2.「中華思想」や「華夷秩序」が染み付いている。
中国は、黄河流域の文明や文化は最高のものであり、アメリカのような野蛮人もいずれは中国の文化に取り込まれると考えています。これは、漢の時代に匈奴を取り込んだ経験に基づいています。しかし、清の時代、支配者であった女真族は民族の文化を頑なに守り通したことを忘れているようです。このように、他国の文化を見下しているため、他国の理解はより低くなります。
3.「孫子」を生み出した漢民族は戦略的に優れていると勘違いしている。
「孫子」に代表される兵法書は、春秋戦国時代に生み出されました。この時代は、同じ価値観を持つ同一の文化圏内で、同じ民族が離合集散を繰り返していました。しかし、現代の国際社会は、異なる文化や価値観を持った国家や民族間で利害を争っており、「孫子」が成立したときと条件が異なっています。これを理解せずにそのまま「孫子」を持ち出しても、利益よりも害の方が大きくなります。
また、過去1000年の歴史を振り返ると、漢民族が中国全土を支配できた期間はわずか200年(?)に過ぎず、このような事実からも戦略的に優れていると判断することは間違いです。
4.中国の軍事力が増大すると周辺国は脅威を感じ、反中国的な行動を取る。
中国が軍事力を増大させる理由は、国際的な影響力を強めるためることがその一つであると考えられます。しかし、中国の軍事的な圧力が高まると、親中国的な国は中立的な行動を取り、中立的であった国は反中国的な同盟を組むようになります。その結果、中国の影響力は相対的に低下します。
5.周辺国の反発を避ける唯一の道は軍事力の削減である。
中国が周辺国の反発を受けずに、国際的な影響力を強める唯一の手段は軍事力を削減することです。しかし、歴史的な恨みから中国は国の規模に応じた軍事力を保持する事を望んでおり、また、軍事力を増大させることで利益を得る人たちもいることから、軍事力を削減することはできそうにありません。
6.経済成長をこのまま続け、軍事力で圧倒するしかない。
中国の経済成長率は年に7%程度あり、アメリカなどを圧倒しています。このペースで経済成長を続け、それに応じて軍事力を増大させれば、中国に立ち向かえる国は無くなります。しかし、反中国的な同盟を組んだ国が中国の経済成長を妨げるような行動を取るため、現在の成長率を維持することは難しくなります。また、中国は多くの国内問題を抱えており、それらが原因で経済成長が止まる可能性があります。経済成長が止まると、中国国内の矛盾が一気に噴出します。その時、中国は持ちこたえられるでしょうか?
この本の約半分のページは、リーマン・ショック以降の中国の行動に対する周辺国(オーストラリア、日本、ベトナム、韓国、モンゴル、インドネシア、フィリピン)の行動を説明しています。ほとんどの国が反中国的な行動を取っており、反中国同盟と呼べるものです。例外は、韓国ぐらいでしょうか。
著者は各国の要人と意見を交換できる立場にありますが、この本に書いてある中国や周辺国の行動は、ニュースなどで確認できるものばかりです。読みやすい本ではありませんが、この本を読むとニュースの見方が変わるかも\(^o^)/
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